福岡高等裁判所宮崎支部 昭和26年(ネ)8号 判決 1952年4月07日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は原判決を取消す。昭和二三年一月三〇日被控訴人が別紙目録記載の土地につきなした裁決第四九一号はこれを取消す訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人に於て、控訴人が本件農地の所在地を離れたのは控訴人が孤児であつて義務教育を受けるため已むなく他村居住の後見人宅に引取られたのであるから右の場合は自作農創設特別措置法第三条第一項第一号及び同第四条第二項同法施行令第一条の法意から考え控訴人を不在地主と認めることは非論理的な解釈であり、又控訴人は近く義務教育を終え右農地所在地に復帰しようとしても本件土地の外田地なく本件土地を買収せらるるにおいては同法第六条の二第二項第四号規定の如く生活状態が買収請求をした者の生活状態に比べて悪くなるのであると附加陳述した外原判決の摘示事実と同一であるから、それをここに引用する。
(立証省略)
理由
被控訴代理人の主張する原判決摘示事実に対する当裁判所の判断は原判決中八枚目表二丁目の「自分が知らない間に」とあるを「訴外田崎勇吉が知らない間に」と訂正する外すべて原判決のこれに対する説示と同一であるからこれを引用する。次に控訴代理人の当審における主張事実について按ずるに原審証人加藤正義、当審と、原審の証人関重雄の証言により認められる控訴人は被控訴人が本件土地につき裁決した昭和二三年当時十四歳の少年でありその姉妹(当時十六歳と十二歳)等と共に隣村月野村の後見人関盛吉宅に引取られ生活しており右住居から本件農地迄は約二里半位の距離にあり右農地を控訴人自ら耕作することが極めて困難であること、控訴人は本件農地の外に昭和二一年頃畑約六反二畝余を所有していたけれども当時他に売却したこと、控訴人の後見人関盛吉は田畑合計約二町六反歩を所有しており現に控訴人等と共に農耕に従事していること等の事実と自作農創設特別措置法の立法の趣旨が耕作者の地位を安定せしめ、自作農を急速に創設し、農業生産力の発展を図る目的にある点とを併せ考えると、控訴人がその主張のように孤児でありそのため他村居住を余儀なくされたものであつたとしても本件農地につき末吉町農地委員会が法第三条第一項第一号該当農地として買収計画を定めたことは已むを得なかつたことでありその間違法の点は認められないしその措置は主張のように必ずしも非倫理的な解釈とも思われない。また前認定の諸事実を綜合すると控訴人が本件農地を自作するため早急に本籍地に復帰するものとも認められない。従つて控訴人の右主張も理由がないものといわねばならぬ。
以上の次第であつて控訴人の主張はすべて理由がないから末吉町農地委員会がなした控訴人の異議申立却下決定に対する訴願を棄却した被控訴人の本件裁決もまた適法であつて、これを違法としてその取消を求める控訴人の本訴請求はこれを容認するに由ないものであるから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。(昭和二七年四月七日福岡高等裁判所宮崎支部)